なにか嫌なことが起きた時に私の脳裏によく浮かぶ言葉。

 

『まあ災難ってなァ瀑(にわかあめ)みてェなもんで、突如(いきなり)来やがるもンだからな。避けようたって避けられやしねェのよ。いずれ俺だってお前だって、似たような境遇じゃァねえか。死なずに生きていたんなら、良しとしなけりゃなるまいよ』

 

京極夏彦の『巷説百物語』という作品に登場する、又市という主要人物のセリフである。

 

この作品が私は好きで、シリーズ化もしているが、特に一作目の『巷説百物語』は何度も読んだ。

時は江戸時代、又市一味は非合法な依頼を受けてそれを解決することを仕事としているのだが、その方法が「化物仕立て」にしてしまうというもの。何かを起こすのは必ず人だが、それを妖怪や魑魅魍魎の起こしたことのように見せかけるという変わった手法で依頼された揉め事を解決していく。

冒頭の台詞は、又市一味の紅一点、おぎんのもとに舞い込んだ依頼をおぎんが又市に話しているシーンで、おぎんの知り合いに起きた不幸ごとを聞いた又市が漏らすものである。

 

この台詞自体は物語の重要な台詞ではないのだが、とても印象強く頭に残っている。

災いや禍いは求めてやってくるものではない。ある日突然、望まぬのに降りかかるものなのである。それ自体にどうこう言ったり騒いだり泣き続けても、どうにもならないものだ。

ポジティブに捉えようとかそういうことではなく、死なずに生きながらえた身で何をするかなのだと思う。

 

今のコロナ禍も、死なずに生きていたんなら、良しとしなけりゃなるまいよ。